橘真児『人妻と官能小説家と…』

橘真児『人妻と官能小説家と…』
(二見文庫、2018年10月)

ネタバレ有り。御注意下さい。

作品紹介(公式ホームページ)





【あらすじ】

官能作家の育雄は得意のロリータものはもう出せないと言われ、今後は人妻ものを書いて欲しいと頼まれるが、童貞で女性経験のない自分にそんなものは書けるはずがないと悩む。そんななか女流官能小説家の純江に誘われ、かつての職場の後輩・陽香と再会するなり正体を見抜かれ筆下ろしをしてもらう。更には女性編集者の由美子にもモーションを掛けられるが、仕事の話はボツとなり傷心を抱いていたところに女子大生の瑛里奈と出逢い…。


【登場人物】

吉木育雄(椿須美緒)
34歳の独身の官能小説家。五目書房のジャンクメイト文庫にて、ロリータものの作風で12冊の著作を出しているほどの中堅クラスの存在である。デビュー2年目で勤めていた会社に作家であることを明かして退職している。美少女に強い性的嗜好を持つも実現させることは難しいとも承知しており、それ故に現在まで女性経験の無いままで、現在はファンシーショップでアルバイトもしながら生計を立てている。

草苅純江
35歳。育雄とほぼ同期の女流官能小説家だが著作は少ない方で、美貌を武器にテレビ出演や雑誌・新聞のコラムを書くなど、どちらかと言えば評論家に近い立場である。一応既婚者ではあるが童貞食いの気があり、育雄などの作家に対してはマウントを取りたがる悪癖を持つことから、同業者や編集者の一部からは毛嫌いされてもいる。

北川陽香
26歳。勤め人時代の育雄の後輩で9ヵ月だけ一緒に総務課で働いていたことがあり、現在は上司と職場結婚し専業主婦になっている。育雄がアニメ好きだと知って同じ趣味の持ち主だと親近感を抱いていたが、姪御に頼まれたグッズを買いに来た時に偶然育雄と再会した。育雄のペンネームを知っても特に嫌悪するでもなく男性として意識するも、ファンである純江との関係を知って一方的に振ってしまう。

松原由美子
31歳。中堅である宝殿出版に中途採用されたばかりの編集者で、見た目はアスリートそのもので溌剌としていて行動力があり、自ら官能レーベルの立ち上げに向けて育雄を始めとする官能小説家に手当たり次第依頼を持ち掛けていたらしい。しかし猪突猛進タイプなのが玉に瑕で、実は上司の承諾を取らぬまま勝手に話を進めていただけに過ぎなかった。結婚はしているが少々ご無沙汰気味。

西山瑛里奈
24歳の人妻で夫は長距離トラックの運転手。6歳になる娘もいる。育雄の勤め先に入ったばかりのパートで、見た目は女子大生どころか高校生にも見えるいわゆる合法ロリの可憐な美女。育雄の優しさに触れ好意を抱き、少々倒錯したシチュエーションでの性交を望んでいた。


【展開】

椿須美緒の12作品目が仕上がったと五目書房に呼び出された育雄だったが、担当編集より社の方針で今後18歳未満のヒロインを登場させられなくなったと聞かされ、一般向け官能への転身を勧められてしまう。美少女愛を貫いたために育雄は女性経験が全く無く、いざ熟女ものをと言われても皆目見当が付かないが、それでも童貞と見抜かれまいと嘘を突き通すしかない。熟女ものを書くヒントを得ようと作家協会の懇親会に参加し、すがる思いで二次会にも参加したが同業者からも童貞だと疑われた上に、同期の純江に散々弄られ自棄酒を食らう始末である。おまけに酔った勢いで純江にラブホテルに連れ込まれ、童貞だと論破された上に勃起を扱かれて呆気なく果ててしまい、純江のペットにされても二度目は出来ずに気まずいまま別れてしまう。

ある日バイト先のショップで客としてやって来た陽香と偶然再会した育雄は、彼女の求めで部屋に招いたもののあっさりと「椿須美緒」だと見抜かれただけでなく、童貞なんだとバレてしまう。好きな官能小説家は純江だと思い入れがあるようで、人妻なのにも関わらず陽香から協力してあげると告げられ、育雄はとうとう童貞を卒業する。次の逢瀬の約束まで取り付けていたが、ある日陽香の態度は一変しもう連絡して来ないでと強い拒絶を受けてしまう。それは純江が育雄を誘った晩の出来事を脚色し、「実録ノンフィクション」として雑誌のコラムに掲載されていたからで、察しの良い陽香は童貞のふりをしたと憤りを見せたようである。

その話は作家界隈にも広まり育雄は窮地に立たされるが、意外にも仲の良い作家たちは彼の話に耳を傾けてくれる。どうやら彼らは育雄と同じように純江の日頃の振る舞いを見て苦々しく感じているようで、積極的な擁護までとはいかないが騒ぎ立てることも無かったのである。そんな中育雄は担当編集の紹介で由美子と居酒屋で打ち合わせに向かい、官能小説に対する熱意を聞かされ彼女とだったら仕事が出来そうだと意気込み、しかも由美子は欲求不満なようでテーブルの死角で誘い口唇奉仕までしてくれたのだった。

プロットが上がったら続きを…と言われて育雄はメール送信するが1週間経っても何も返事がなく、同業者に呼び出されて酒席を訪ねると、どうやら由美子は上司の承諾を取らぬまま勝手に話を進めていたらしい。彼女が退社したと聞かされ自分は利用されただけだと悟った育雄は、いつになく酒に酔い荒れてしまう。流石に作ったプロットを五目書房に転用するわけにもいかずまた出直しとなり、やはり自分には人妻ものは無理かも…と諦め掛けていたところに、バイト先に瑛里奈が入って来た。
いかにも育雄好みの合法ロリの瑛里奈は女子大生で、仕事中のミスをフォローしていく内に、倉庫に連れ込みセックスを迫る場面を想像して股間を膨らませるが、彼女に気付かれたものの嫌がる様子でも無さそうである。ある日ミスの償いに瑛里奈が自ら倉庫の整理をすると言って向かったものの、閉店時間を過ぎても戻らないのを心配して見にいき作業を手伝うが、非情なことに誰もいないと思ったのか外から鍵を掛けられてしまっていた。二人きりという状況で瑛里奈が粗相をしたのを知って再び股間を滾らせると、それを見た彼女の方から抱いてとばかりに誘惑を仕掛けられて…。

数日後育雄は五目書房向けのプロットを完成させ担当編集に提出すると、これでいきましょうとOKをもらえただけでなく、もし難しいのなら女子大生でもOLでもお願いしようかと思っていたと聞かされる。それなら最初から…と育雄は呆れるが現実には合法ロリ人妻の瑛里奈と逢瀬を重ねており、仕上がったプロットに登場するヒロインは、育雄と関わった女性たちをモチーフにしたものである。散々コケにした純江ですら許してやろうと余裕を持てるのは、生活が充実しているからだと納得し、打ち合わせ中に瑛里奈からのメールを見ながら幸せに浸るのであった。


【レビュー】

複数のレーベルにてほぼ毎月のように作品を刊行なさっている作家なだけに、個人的にはどうも乗り遅れてしまった感が否めず避けてしまっていたが、本作のあらすじに強い興味を惹かれて購入した次第である。官能小説家である主人公は美少女ものを題材とする作風を手掛けていたが、レーベルの方針によってヒロインの年齢の下限が引き上げられ、同じ会社の一般向け官能への転向を余儀なくされて…というのが大まかなあらすじとなっている。

主人公自身は性的趣向としては美少女であっても見た目も中身も常識的であり、それ故に独身かつ童貞なために人妻を主題とした官能作品をと求められても、未知の領域なので見当も付かないところから始まる。作中では複数の官能小説家が登場するが、脚色をかなり加えてはいると想像は付くものの、虚実織り交ぜた人物像はもしかすると…を考えながら読むのも面白いのかもしれない。

ヒロインは全て人妻であり美飾に仕立て上げられた女性作家、勤め人時代の新人社員、新規レーベル立ち上げに前のめりな体育会系編集者、見た目の若いバイト先の後輩が登場する。但しこの四人全てと情交にまで至る訳ではなく、いわばペッティング止まりなヒロインもいる。そのヒロインたちは主人公の女性経験の少なさを利用する逞しさもあり、彼も当初は騙されたと憤りを見せるものの、性遍歴を踏まえて最後は良い芸の肥やしになったと思い出に浸ってもいる。官能的な描写はやや抑えめで正直そこを期待するともの足りないのだが、将来を窺わせるハッピーエンド型のコメディな官能作品と考えれば、十分に満足のいく仕上がりだったのではと思う。







管理人は別に業界の人間ではないのですが、こういう官能業界の裏話的なものは好きな方です。虚実織り交ぜた設定ということもあり、登場する出版社や官能小説家はどなたをモデルにしたのだろうと考えるのも面白いものです。

主人公は吉木育雄(ペンネームは椿須美緒)でロリータ作品を書かれていたということから、作者の橘真児さんご自身のご経歴と他の作家さんをミックスしたのだろうなと思っていましたが…。刊行されて間もなくモデルご本人(とされる方)から反応があったようです。

我、橘真児ヲ糾弾ス!(柚木郁人さんのブログより)

詳しいことはブログ記事を拝見いただくとして、五目書房やジャンクメイト文庫ってそのままじゃんという感じですよね。作中にご登場されている官能小説家の方々も聞けばクスリとさせられるものでして、こうした内輪ノリな雰囲気は読んでいて官能よりも笑いを呼び起こすものでした。(すみません)

登場する官能小説家のなかには恐らく橘真児さんご自身をモデルとされた方も登場しますが、彼の言動からご本人が訴えたいことが透けて見えるような気もしなくはありません。

創作の世界と現実の世界は別物。
その切り分けが出来ないのなら関わらないでいただいて結構だから、
「分別」という干渉も行き過ぎたアピールもしないで欲しい。


すみません、これは私が常日頃から感じていることです。少なくとも私は官能小説が創作の世界だと理解はしているし、現実の世界での行動には何ら影響はございません。官能作品の愛読者だからといって別に普段の顔はただの会社員で、家庭人でもあります。そのくらいの分別くらいありますよ、勝手にレッテル貼りしないでくださいよということです。

フランス書院文庫の配本当日に東京へ出掛け、いち早く購入しようとする時点で相当なマニアだなとは自覚してはいます(苦笑)

本作で訴えたいことの一つには「自主規制」の名の元に、似たり寄ったりで無難な作品を求められるのは時代の要請だから仕方がない、それで良いのかということだと思います。恐らくあらすじの時点で本作に惹かれたのはそこなのですが、勿論堅苦しいだけではエンタメとしては成り立たないですから、作者の真意はご本人しか分からないということで当たり障りの無い結論でまとめるしかないですね。
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tag : 社会人主人公 童貞 誘惑作品 人妻

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プロフィール

にゃら

Author:にゃら
千葉県在住の会社員。40代を迎えましたが、まだまだフラフラと迷う日々を送っています。
フランス書院文庫を中心に官能小説だけで蔵書が300冊近くになりました。整理したいと思いつつも手離し難く、最近電子書籍に目覚めて古い本から順に移行させつつも、まだまだ購入量の方が多いといったところです。
一部で関係者(作家さんや編集者さんなど)と思われているようですが、全くの見当違いです。
官能作品に関わる全ての方に感謝しつつ、読み続けていきたいと考えています。

〈誘惑官能小説〉
主にヒロイン側からのアプローチで結ばれる官能小説。「私がオトナにしてあげる」などの舞台設定が好きな方にオススメします。
自分の年齢の半分以上(!?)官能小説に触れて来ていますが、最近は趣向の多様化もあって、一口に誘惑と言っても色々と華やかになっています。
なお個人的な好みが色濃く反映されていますので、作品によっては辛めな感想になりますが、その辺はご容赦下さい。

〈コメント〉
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