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神室磐司「武家妻くずし 仇討ち秘話」

神室磐司「武家妻くずし 仇討ち秘話」
(時代艶文庫、2012年2月、表紙イラスト:加藤美紀)

ネタバレ有り。御注意下さい。

作品紹介(公式ホームページ)






【あらすじ】

私は一人でも笠間の家を守って参ります……辻斬りに斬られて落命した夫。後家として生きる咲江は、武家女の誇りと、持てあます肉欲の狭間で葛藤する。亡夫の背後にちらつく他の女の影、密通の噂、謎の浪人集団……咲江は事件の真相を知り、夫の仇を討つため、義弟の千三郎に助けを求める。困難と情念の果てに、二人がたどりついた衝撃の真実とは? 

(公式ホームページより引用)


【登場人物】

笠間千三郎
二十一歳。江戸の神田にある旗本五百石の笠間家の三男坊だが、今のところ婿養子先が決まらず冷飯ぐらいの厄介叔父と自称している。小遣いも少ないことから悪所通いはせずに、道場に通い詰めて剣術に打ち込んではいるものの、剣術より算術という時代に取り残されている感が否めない。性格は三兄弟の中では一番穏やかで優しく里美を好いているが、身分違いの恋であると承知している。女通いの経験はある様子。

笠間咲江
三十一歳。笠間家長男で御納戸役の恭一郎の妻として嫁ぎ、長男の達義をもうけている。跡継ぎができた為なのか夫に構ってもらえず、義弟に当たる榊原勇次郎の荒々しさに惹かれ密通に及ぶが、それがきっかけで夫を殺されてしまうことに。後に達義の後見人となった千三郎と再婚。

榊原奈津
二十三歳。旗本三百石の榊原家の長女で、笠間家より次男の勇次郎を婿に迎えている。勇次郎の粗暴な振る舞いが原因で無役に置かれており、それが苛立ちに拍車を掛け悪所通いだけでなく義姉の咲江との密通にまで及んでいる。夫の自堕落振りに心を痛めつつも何もできずに悩んでいた時に、千三郎に抱いて欲しいと求めてしまう。

角野里美
十八歳。神田松永町にある剣術道場「剣泉館」を営む甚右衛門の娘で、黒目がちの美貌に気立てが良く剣術の腕も立つ。千三郎とほぼ相思相愛の仲だが旗本と牢人(主を持たぬ侍)の娘という身分の差もあり、到底叶わぬものとなっている。後に御家人の次男坊を婿に迎えるがその前に純潔だけはと彼に抱かれることを求める。

常磐木元九郎
常磐の国出身の浪人で諸国を巡り銭稼ぎをしながら武者修行に励んでいた。見た目はむさ苦しく粗野に見えるが、千三郎とまみえて心を入れ替え剣術の修行に励む。我流の剣術は奇策を伴い腕っぷしには確かなものがある。しかし土蜘蛛一味の道場破りに来た際に打ちのめしたことで恨みを買い、その晩に待ち伏せされ滅多斬りにされて命を失う。


【展開】

剣泉館より屋敷に戻った千三郎は中間の権六より主の恭一郎から咲江の監視を依頼され、不忍池のほとりにある出会い茶屋で彼女の義弟に当たる勇次郎と密通しているらしいと報告を受け胸騒ぎを覚える。小者で短気な恭一郎は恐らく妻の密通を確信しての尾行で、報告を受けたら何かしでかすかもしれぬと危惧していたが、その晩恭一郎が一人で出掛けたと聞き急いで榊原家へ向かう。勇次郎に行方を尋ねると一杯酒を交わし話を終えてから何処へ出ていったとのことで、見送りに出た奈津の表情が強張っているのを気にしつつも笠間家へと戻る。そして翌日神田和泉橋の袂で侍の遺骸が見付かったと聞いて向かうとやはり恭一郎で、腹を刺され首を斬られて堀に投げ込まれたらしく、財布が無いことから物盗りの仕業と思われた。恭一郎の亡骸を前に勇次郎と奈津、そして咲江も集まったが千三郎は密通の話がどうしても真実とは思えずにいた。

数日が経ち達義の後見人となった千三郎は咲江が実家に戻るのではと恐れていたが、息子を見守りたいから後家を貫く所存だと聞いて安堵したものの、街の噂では跡目狙いで千三郎が殺したのではと根も葉もないことになっていては無実を証明する他に無さそうである。恭一郎が亡くなっても咲江は勇次郎との密通を止めようとはせず、その晩寝室であろうことか勇次郎の名を呼んで手慰みをしているのを耳にした千三郎は劣情を覚えながらも密通が発覚すれば死罪となるだけに何とかせねばと決意する。そんなある日奈津からの文をもらい榊原家を訪ねるが、奈津は勇次郎が女遊びをしているのは知っていても相手が咲江とは気付いていないようで、勇次郎をどうにかして欲しいと頼まれる。そして自分が女として魅力があるならば抱いて欲しいと求められ身体を重ねるのであった。

奈津を抱いた翌日千三郎の元に剣泉館の門弟がやって来て、道場破りが参ったので男手の助太刀を頼まれる。江戸界隈では道場破りを繰り返している者がいるらしくひょっとしたら兄を殺した下手人ではと脳裏に浮かぶが、いざ現れた相手は常磐木という浪人である。熊のような大男に正攻法で何とか勝った千三郎に常磐木は改心し剣泉館で修行させて欲しいと頼み、里美は改めて千三郎への恋心を露わにしたものの身分違いだけはどうすることも出来ず切ない表情を浮かべるしかない。その一方で千三郎は咲江に密通を止めるように進言するが取り合ってもらえず、ならば勇次郎と逢った時に言うしかないと後を追うが、尾行に気付き殺気だった兄に恐れを抱き逃げ出してしまう。屋敷に戻り改めて咲江に諫言するとならば千三郎が慰めてくれるのかと問われ、二度も身体を重ね遂に一線を越えてしまう。

恭一郎殺しの下手人の手掛かりは一向に掴めず焦る町方は巷で噂になっている土蜘蛛一味の三人の話を聞き後を追うが、火盗改め方に捜査権が移ることになり町方衆は跡目狙いで千三郎が疑わしいと周囲を嗅ぎ付け始める。その頃千三郎は父から咲江を娶ることを提案され、兄嫁が何を考えているのか真意を図りかねつつも受け入れるが、その晩夫婦になるのだからと咲江に迫られその淫らさに溺れ二度も放精してしまう。ある日剣泉館で里美が常磐木と稽古に励んでいると、かの土蜘蛛一味が里美を賞金代わりに道場破りへとやって来るが、邪法には奇策とばかりに常磐木が返り討ちにして追い出す。その晩祝杯とばかりに千三郎は常磐木と飲んだ後に別れるが、翌朝一味の闇討ちに遭い滅多斬りにされた常磐木の遺骸が発見される。
兄が殺されてはや五ヵ月、常磐木も殺され土蜘蛛一味への仇討ちを果たさねばと千三郎は決意するが、一味の顔を見ていないだけに会ったところで判別のしようがない。そんななか常磐木の初七日法要の為寺に参った千三郎は勇次郎と話をしていると、待っていましたとばかりに町方の同心に声を掛けられるが、自分を疑っているのかと勇次郎が激昂し斬り捨てようとする。千三郎が何とかその場を収め同心が去ると勇次郎に対し密通を止めて欲しいと頼むが、勇次郎は求めてくるものは仕方ないし、お前も奈津を抱いたであろうと斬りかねない勢いである。真剣勝負では勇次郎には敵わないと分かっているだけに、千三郎は引き下がるしかなかった。

その頃町方衆は土蜘蛛の潜伏先を突き止め功を焦るばかりに即席で人を集めて捕らえようと試みるが、手負いに遭った上に取り逃がしてしまい、土蜘蛛の一件も火盗改め方に捜査権を奪われてしまう。一方千三郎は父より自分が疑われているから行動を慎むように告げられ、それでも探りを入れようと小料理屋で同心と話をした後で、店の女将から恭一郎が殺された晩に怪しい二人組の侍と侍の妻らしき女性を見たと話を聞く。
捜査権を奪われたとは言え機会を伺っていた同心一味は独自の捜査網を駆使し、土蜘蛛一味が盗人に雇われていることを掴み、千三郎に助太刀を依頼して潜伏先にいた一味の内の一人を捕獲する。供述によれば常磐木殺しは認めているものの、拷問に掛けても頑として恭一郎の件は認めていない様子。それでも残る二人との待ち合わせの寺の場所を聞き出すと、大立ち回りの末に千三郎は二人を斬り身柄を確保することに成功する。やはり恭一郎殺しの件はと千三郎は決意を固め咲江を抱くと、次の日勇次郎の屋敷を訪ね単刀直入に兄者が殺したのではないかと問う…。

勇次郎が自害し罪を認めたことで榊原家は取り潰しとなったが、奈津は嫁ぎ先が見付かり咲江との密通も表沙汰にはならず収まったある日、剣泉館での稽古を終えた千三郎は里美から文をもらい不忍池のほとりにある出会い茶屋にやって来る。里美の気持ちを痛いほど分かっていた千三郎は、他の男のものになる前に抱いて欲しいという彼女の願いを受け入れ、初めての男になるのであった。


【レビュー】

2010年12月から隔月で2~3冊ペースで刊行されたフランス書院の官能時代小説レーベル、「時代艶文庫」の第9弾ラインナップとして本作が刊行されている。神室磐司名義での刊行は小説賞を受賞された『斬恨の剣 仇討ち異聞』と本作のみである。

斬恨の剣―仇討ち異聞
神室 磐司
学研パブリッシング
2010-02



時代小説に官能的な要素を加えた「官能時代小説」はちょうどこの頃がブームであり、フランス書院としてもブームが定着化に至るのかどうかを見極める意図もあってのレーベル設立だったのではないかと思われる。そのモニタリングの結果として定着化には至らないとの判断に至ったとみられ、第9弾での休眠(実質的な終了)に繋がったようである。

官能時代小説としてのジャンルを定着させるには、歴史的考証もある程度必要でかつ官能的要素もこなせる書き手が必要だと考えるのだが、多少の知見を持つ方ならばあれこれと口を出してみたいものであろうか。ざっくりと江戸時代だとしてそれを背景とした官能的な娯楽ものとして楽しむのには、あれこれと歴史的な情報を手に入れやすい時代になり、純粋にフィクションとして受け入れてもらうのは難しいのかもと思う次第である。

本作は旗本の三男坊が兄嫁の密通を知り、それが長兄の耳に入り密通相手に直談判しに行って非業の死を遂げてしまい、その真相を探る話が主軸である。時代小説ならばその兄嫁が仇討ちを…となるところだが、当の兄嫁が密通している当事者で、手を下したのはその相手である。後家となった兄嫁が仇討ちをする必然性もなくそこに纏わる凌辱的な展開もないと考えれば、江戸界隈を騒がせている剣術一味と斬られ役の浪人の話を絡ませたのは目新しく読み物として純粋に楽しめた作品だったと思う。兄嫁・咲江が男なしではいられぬその淫らさに、三兄弟がそれぞれに溺れていくだけに官能的な要素としては、千三郎視点ではなく咲江視点での展開であればまた違った味わいになったのかもしれない。






時代艶文庫は18冊刊行されましたが、御堂乱さんが5冊、八神淳一さんが5冊、北川右京さんが3冊と実質的にはこのお三方頼みの印象が強く、残り5冊は神室さんを除いて社内の書き手を何とか総動員したように思います。若月凜さんはわかつきひかるさん、星野蜂雀さんは星野ぴあすさん、神楽稜さんは(恐らく)巽飛呂彦さんの別名義で、あとは当時リアルドリーム文庫でもご活躍されていた芳川葵さんです。
隔月の刊行ペースでしかも2~3冊ずつの上に、他にも並行して書かれている作家さんばかりですからいずれ書き手不足にも陥るであろうし、少々結果を出すことを急ぎ過ぎたのかなと思います。これが月1冊ペースで2~3年辛抱強く出し続けていたらまた違った状況だったかもしれませんね。
余談ですが翌2012年にはフランス書院文庫Grandeが創刊(現在は休眠)され、夢野乱月さんのハードXノベルズ作品の加筆修正作品と、北川さんの官能時代小説が1冊ずつ刊行されています。前者は後のフランス書院文庫Xに繋がる流れですが、残念ながら時代小説の方はこれで撤退のようです。


【参考作品】

芳川葵「【お伊勢参り】ごくらく道中」




こちらの作品は純粋に誘惑的展開で剣術や仇討ち要素もありますが、ヒロインが暴虐に遭うという要素は全くありませんので、誘惑官能小説好きな方にお勧めします。
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tag : デビュー作品 官能時代小説

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プロフィール

にゃら

Author:にゃら
千葉県在住の会社員。40代を迎えましたが、まだまだフラフラと迷う日々を送っています。
フランス書院文庫を中心に官能小説だけで蔵書が300冊近くになりました。整理したいと思いつつも手離し難く、最近電子書籍に目覚めて古い本から順に移行させつつも、まだまだ購入量の方が多いといったところです。
一部で関係者(作家さんや編集者さんなど)と思われているようですが、全くの見当違いです。
官能作品に関わる全ての方に感謝しつつ、読み続けていきたいと考えています。

〈誘惑官能小説〉
主にヒロイン側からのアプローチで結ばれる官能小説。「私がオトナにしてあげる」などの舞台設定が好きな方にオススメします。
自分の年齢の半分以上(!?)官能小説に触れて来ていますが、最近は趣向の多様化もあって、一口に誘惑と言っても色々と華やかになっています。
なお個人的な好みが色濃く反映されていますので、作品によっては辛めな感想になりますが、その辺はご容赦下さい。

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